有隣寺だより
2020年05月01日(金)
有隣寺だより 第44号
有隣寺便り 第44号 2020年5月文責 有隣寺住職 祖父江佳乃
お礼
有隣寺三姉妹次女尚乃の葬儀に際しましては、沢山のお参り、お心つかいをありがとうございました。皆さんの温顔のおかげで、御浄土に送ることができました。
佳乃 尚乃 朋乃、三人の名前を書くと芸者の置屋のみたいで、女ばかり私たち三姉妹は華やかに賑やかに育ってきました。けれど、当たり前にそれぞれ一人一人色々あって、それぞれの人生を味わってきました。尚乃が、癌を患ったのは中学の時でした。胸の裏側にできた腫瘍を取るために、肋骨を外す大手術をしました。その後、癌細胞を殺すために、強い強い放射線を胸に当てました。
その際に、艶のある黒髪は全部抜けました。その後、若さの力で、美しい黒髪が生えてきました。奇跡的に助かった命が20歳を迎えた時、命が尽きても、誰かの中で生き続けたいと、臓器提供意思カードを持ちました。20歳を迎える事ができるだろうか、生きて欲しいと医師も含め家族が心配した命はそれ以上の期待に応え結婚をし、息子も授かりました。 私自身、多感な時期に彼女の病を間近で見て、ギリギリの命の側にいたはずなのに、元気に笑う彼女に慣れてしまい、病のことを忘れる日常を送ってきました。放射線の影響が30年経って彼女の身体を蝕むこと、そして、癌が再発する事など想像もしませんでした。30年前、父から「尚乃はきっと大人にはなれない」と言われたのに…。人間は慣れてしまう生き物で、今日が幸せだと、そのままずっと幸せだと錯覚してしまいます。仏の話を、凡夫の話を、無常を語っている僧侶なのに、自身の情けなさを思い知らされています。その時、その時、記憶は新しく塗り替えられ、過去が新しい色で塗りつけられていくことは当たり前のことでしょう。けれど、過去は終わっていませんでした。
自分の身体が病に侵されている事実と何十年も思春期から向き合ってきた尚乃はとてもとても、辛かったでしょう。大事な息子と離れなければならない苦しみは病以上の痛みに違いありません。心臓を取り外し、心膜を剥がす大手術の前に「このまま、起きなかったらどうしよう。怖い、怖い」と泣きました。手術のあと、毎朝、毎朝、起きるとすぐに「今日も目が覚めた、生きてる。有り難う。」と涙をこぼしました。どうすることも、どうしてやることもできなかった私です。
けれど、母は、意識を失い、今際のきわに立たされた尚乃の手を握り、「大丈夫、おじいちゃんも、お父さんも、おばあちゃんも待ってるよ。仏様の所へ行くのだから大丈夫」と言い続けました。そして、本堂で「尚乃がそちらに参ります。よろしくお願いします」と、阿弥陀様に手を合わせ続けました。その姿に、私たちがいただいている本願の教え(歩む道はそれぞれでも、どこで死んでも何時死んでも必ず阿弥陀様の浄土に帰ること。そしてその浄土では、先に行かれたその方々に再会できる世界)を確信しました。振り返ってみると、尚乃の病を宣告されたその時から、泣くより先にやらなければならない事があるからと、悲しむより先に熟さなければならない事があるからと、命の移動に目を背けていました。これを機に「後生の一大事」=(来るべき生涯の最も重要な事)に向き合わなくてはならないと感じています。今は涙しか持ち合わせていませんが、尚乃が寂しさと朋に運んでくれた皆さんの優しさに委ねながら一つ一つ一歩一歩、踏み出して参ります。ありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いいたします。
息を引き取るとは、残された私たちが仏となったお方の最後の息を引き受ける事です。その最後の息を引き受けながら自身お命と向き合うからその日を「命日」いのちの日とよびます。
コロナウイルス対策について
いつもならば、うららかな春を満喫したはずなのに、今年の春は「春なのに」の春でした。コロナウイルスの影響で、ザワザワ、ヒリヒリと落ち着かない先の見えない不安にさいなまれていませんか。不安が募ると、不満になります。不満が蔓延すると憎悪が生まれます。有事の時は悲しいかな、人間の奥底にある、ドロドロした物が、浮き彫りになります。殺伐とした空気は平時ならば生まれない糾弾や差別を生み出します。
不要不急の外出は控えなくてはなりません。けれど、テレビやインターネットなど情報過多が不安を煽るのも事実です。いっぱいいっぱいになったなら、お寺に手を合わせにいらして下さい。メディアを通さず、自分で考える時間を持つことは冷静さを取り戻すために必要な時間です。社会に不安が蔓延する今だからこそ、パニックに取り込まれること無く、手を合わせ、仏の教えに耳を傾け、一人一人の心の平安を取り戻したいと願っています。
お参りをする方お一人お一人が、冷静になって、我が身を取り戻す場である有隣寺の本堂は毎日開いています。
有隣寺ホームページに、お寺の様子、今日の法語、保育園の様子等も掲載しておりますので、ご覧ください。(ホームページアドレス:https://www.yuurinji.jp )
御門徒宅でのお参りついて
お伺いさせていただく際、マスクを着用し感染防止のために読経時にも、そのまま外さずにお勤めいたします。お茶のご接待も失礼させていただき、読経後、速やかに退出させていただきます。
本堂でのお参りについて
・マスク着用のままお勤めをさせていただきます。・向拝(入り口)にアルコール消毒液を設備いたします。・扉や窓、スイッチ、手すり等、多くの人が触れる箇所の消毒を致します。・雨以外は窓を開け放してお勤めします。・湯呑み等の使用を禁止させていただきます。・人を密集させない環境を整えます。(間隔を置いてお座りいただきます)
5月17日省念忌説教大会について
大変残念ですが中止とさせていただきます。
が、当日10時より有隣寺2世(照道) 徳風院釋照道十三回忌法要、有隣寺次女(尚乃) 光徳院釋尚喜百か日法要 を勤めます。焼香台をもうけさせていただきます。
5月8日有隣寺 徳風幼児園 花まつりについて
ホールの前に花御堂を一日、出させていただきます。甘露の法雨を意味した甘茶をお釈迦様におかけしてお誕生をお祝い下さい。
『日本のものすごい10人の住職』
1000人の住職を取材した興山社さんから、このような本が出版されました。当山の住職である私もこの中に掲載されております。お読みいただけたら嬉しいです。(本屋さん、インターネットでも購入可能ですが、有隣寺にもご用意があります。ご希望の方はご連絡下さい。本体価格2000円でお渡しいたします。)
今月の掲示板
「はなれていても ちゃんとみているよ」
足並みを揃えない人が攻撃の対象になったり、みんなが言ってるの、みんなはたった三人からだったり…
人の奥にある汚いものが浮き彫りになって、しんどさが蔓延しているけれど
ちゃんと
ちゃんと
仏様は
みているよ、あなたのこと。
あなたのこと、ちゃんと、ちゃんと
みているよ。
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